対談企画 前編 船橋市 松戸徹市長×船橋市立医療センター 丸山尚嗣院長

行政×医師会×医療センター
緊密な連携による救急体制

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丸山院長
船橋市に住んで20年以上になりますが、とても住みやすい街です。
松戸市長
鉄道が9路線、35の駅がある利便性の良さが特徴ですね。全国的に見ても、これだけの数の駅がある市はまずありません。
丸山院長
東京駅から船橋駅までは快速で24分。街が栄えているので買い物にも便利ですし、まだまだ自然が残っているエリアもあります。
松戸市長
船橋は食べ物も美味しいです。漁業が盛んで、スズキの水揚げ量が日本一ですし、高品質の海苔でも知られています。アメリカでクラムチャウダーに使っているホンビノス貝も採れるようになって新しい船橋の名物にもなっています。梨、小松菜、枝豆、にんじんなど農産物も豊富です。
丸山院長
船橋市立医療センター(以下:医療センター)の周りはにんじん畑が広がっていますが、とても美味しいと評判です。
松戸市長
船橋市の現在の人口は64万人ですが、2033年まではさらに人口が増えると予測されています。非常に賑わいのある地域なんです。
丸山院長
若い人も多いので、活気がありますね。
松戸市長
住民の皆さんにとって、住みやすさの基盤となっているのが、安心して暮らせる医療体制だと思います。地域の医療連携によって、24時間いざというときに確実に受診できる診療体制は、大きな安心材料になっています。
丸山院長
医療センターができたのは1983年。地域の救急医療を担う病院として、行政や医師会からの要請を受けて開設されました。そうした背景があるため、地域の中での救急医療体制がスムーズに機能しているのだと思います。
松戸市長
医療センターを中心に、二次救急病院や医師会との連携がうまくとれているのは、大きな強みです。私はずっと行政側から見てきたので、医療センターが開設された頃のことをよく覚えているのですが、当時の日本の救急体制はアメリカなどの医療先進国に比べると非常に遅れていました。
丸山院長
"救急患者のたらい回し"などが報道されていた頃ですね。
松戸市長
その現状を見た医師会の先生たちの「何とかしなければならない」という強い思いで、船橋市の救急体制が構築されたのです。
丸山院長
1992年には全国に先駆けてドクターカーを導入しました。
松戸市長
ドクターカーと呼ばれるものはそれ以前からありましたが、24時間体制で出動時から医師が乗り込むシステムは全国で初めてです。当時日本で行われていたのは消防署から病院に医師を迎えに行き、現場へ行くスタイルだったため、どうしてもタイムロスがありました。そこで、とにかくすぐに医師が現場に到着できるように、医療センターの敷地内に消防局のステーションを設けることになったのです。
丸山院長
医師を迎えに行くのではなく医師が同乗して出動するので、大幅に時間が短縮され、救命率も大幅に上がりました。
松戸市長
今でもこの体制ができているのは日本でもわずかです。他の自治体で導入され始めたのは、それからずいぶん経ってからですので、かなり先進的な取り組みだったと思います。
丸山院長
当院の医師だけでドクターカーを24時間運用することは難しく、夜間、休日を担当してくれる医師会の先生たちの協力があったからこそ実現できたシステムです。行政・医師会・医療センターの3つがしっかりタッグを組まなければ、ここまで続けてこられなかったでしょう。
松戸市長
小児救急でも、市内の病院が協力しながら輪番制で対応していますよね。
丸山院長
はい。船橋市は小児人口が多いのですが、病院勤務の小児科医が少ないため、365日体制で時間外救急の診療を行える病院がありません。そのため、医師会の先生たちを中心に、夜間休日急病診療所で初期診療が行われています。当院ではその受け皿として、二次救急に対応し、入院治療が必要な患者さんを受け入れています。
松戸市長
そうした医療の連携体制は私たちの財産ですから、これからも行政がしっかりとサポートしていきたいですね。

医療、介護のニーズに応える
地域包括ケアの取り組み

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丸山院長
行政・医師会の先生方との良い関係性があるからこそ、地域医療の役割分担もうまくできていると感じます。
松戸市長
医師会の先生たちと医療センターの先生たちの仲も良いですよね。地域包括ケアの取り組みとして、高齢者の方々を支えるためのシステム作りにも力を入れていただいています。医師だけでなく、介護スタッフ、歯科医師会、薬剤師会など多職種が関わることで、より充実したサポート体制が築けているのではないでしょうか。
丸山院長
船橋市は人口が増加している地域ですが、高齢化は他の地域と同じように進んでいます。病気になるのは高齢者の方が多いですから、医療、介護に対するニーズに応えていくためには、医療機関ごとの役割分担が重要です。
松戸市長
どの病院でも同じことをやっていたのでは、地域包括ケアは成り立ちませんね。機能分化していく必要があります。
丸山院長
その中で当院が果たす役割は、この地域の急性期医療を担うこと。特に二次救急病院ではできないような、より高度な急性期医療や難しいがん治療、重症の交通外傷など、地域の"最後の砦"として、市民の皆さんを支えていくことが使命です。
松戸市長
東葛南部医療圏で三次救急を担う役割は大きいですよね。医療センターが重症の患者さんを受け入れてくれることで、開業医院の先生たちや二次救急病院が安心して医療を提供できます。
丸山院長
連携によって、当院に患者さんをご紹介していただくだけでなく、治療を終えた患者さんはまたお戻しして、かかりつけの先生たちに継続して診てもらいます。当院が急性期医療に特化していくためには、そうした連携が欠かせません。
松戸市長
2008年に医療センターの向かい側に開設された、船橋市立リハビリテーション病院も優れたリハビリの提供と共に治療後の患者さんを受け入れる後方支援の役割を果たしていますね。
丸山院長
はい。急性期治療を終えた患者さんが早いタイミングでリハビリテーション病院に移行することで、医療センターのベッドが空きます。そこに、また新たに緊急の患者さんを受け入れることができます。
松戸市長
医療センターの開設当初から先進的に導入された「オープンベッドシステム」が、まさしく今の地域医療の連携を象徴している仕組みだと思います。当時は新聞などでも大きく取り上げられました。
丸山院長
そうですね。当院の医師とかかりつけの開業医院の先生が、協力して入院治療をするスタイルは非常に珍しかったと思います。現在もオープンベッドシステムは継続していますが、実際には開業医院の先生方もお忙しいので、当院の医師に「あとはお願いします」と言われることがほとんど。ただ、一緒に診ていくという精神は今もずっと続いています。
松戸市長
連携の形も少しずつ変わってきているのですね。
丸山院長
ええ。2017年からは、連携医の先生からの急な要請にお応えするために、各診療科の部長につながるホットラインを開設しました。以前はお電話をいただいても、なかなか担当の医師につながらずにお待たせすることがあったのですが、今はすぐに連絡がとれるようになりました。当院の地域連携室には医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師が配置されており、入院から退院までの流れもスムーズになっています。

信頼される病院をめざして
地域住民に向けた活動を実施

松戸市長
私は船橋市の行政に長く関わってきましたので、これまでの医療センターの歩みをずっと見てきました。特に素晴らしいと思うところがいくつかあります。
丸山院長
それはぜひお聞きしたいです。
松戸市長
1つ目は診療科目を積極的に増やして、その時代に必要なものを取り入れているところ。例えば歯科口腔外科など、入院されている患者さんのケアで必要な診療科を増やされています。
丸山院長
歯科口腔外科は住民の皆さんからのニーズがありました。他の病院やクリニックでも十分な医療が提供できる診療科については、当院で新たに取り入れる必要はないと思うのですが、当院で担っていかなければならないものに関しては、やはり積極的に取り入れる必要があると考えています。今は31の診療科があり、それぞれ専門の医師が活躍しています。
松戸市長
2つ目は看護師さんたちの対応が非常に良いこと。レベルの高い看護スキルで、患者さんたちの満足度も高く、「こういう病院を作ってもらえて良かった」という声が私の耳にも直接入ってきます。
丸山院長
嬉しいですね。病院としても看護師たちのスキルアップを応援しています。専門資格を有する看護師が多数在籍しているのも強みです。
松戸市長
3つ目に市民向けの公開講座や講演会をたくさん開催されているのも素晴らしいです。講座や講演会を開くだけでなく、図書館とコラボレーションしておすすめ本のコーナーを設置されていますよね。そうした活動は一見地味に見えますが、実は市民にとってはとても大事なことで、健康のための意識作りに大きく関わっていると思います。
丸山院長
市民向けの公開講座や講演会は、図書館だけでなく公民館まで手を広げて開催しています。船橋駅前のフェイスビルでも年に4回開いています。市民の方がたくさん集まってくださいますね。
松戸市長
その時々でテーマを変えて、皆さんが関心を持っているようなことをタイムリーにお話されているのが魅力です。診療を受ける側の市民の皆さんの医療や健康意識を高めていくことも地域医療のレベルを上げることにつながると思います。
丸山院長
病院には病気になってから行くのが当たり前ですが、これからの時代は私たちが地域に出て行くことが必要だと考えています。
松戸市長
それは頼もしいですね。地域の皆さんに向けた活動を積み重ねることで、大きな力になるのではないでしょうか。

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